病院へのカルテ開示について、時間と費用をかけて手続きをしたのに、欲しいデータがもらえなかった、修正などの履歴がなかったなどの話をよく聞きます。
このコラムでは、カルテ開示にあたって当事務所でお伝えしている失敗しないためのポイントを解説します。
カルテ開示の手続きは自分でできる?!
電子カルテが普及し、カルテ開示手続きも一般的なものになりつつあります。多くの総合病院や公立病院はホームページ上でカルテ開示の方法を具体的に公開しており、患者様やご家族がご自身で手続きすることができるようになっています。
一方で、現在も個人のクリニックなどの一部で、手書きのカルテを採用している医療機関がまだあり、カルテの破棄や改ざんなどのリスクが全くないわけではありません。そのため、当事務所では、ご相談をいただいた時に、必ず診察時の状況をお聞きして、相手の病院が紙カルテなのか電子カルテなのかを確認してから、ご本人でのカルテ開示で十分かを判断し、アドバイスしています。
病院はカルテ開示に応じる義務がある!
患者様からカルテ開示の希望があれば、病院が正当な理由なく拒否することはできないことになっています。
厚生労働省から「診療情報の提供などに関する指針」が策定され、日本医師会も平成12年より倫理規範の一つとしてカルテ開示をすべきと普及に努めてきました。
その後、平成17年には個人情報保護法も施行されました。
しかし、今でも医療機関の規模にかかわらずカルテ開示に難色を示したり、何に使用するのかを執拗に尋ねたり、場合によっては開示を拒むなど、スムーズに開示ができずストレスを感じるケースもあります。
当事務所でも、相手方の病院が手術ビデオなど一部の記録を「診療記録に該当しない」という論理を使って開示をしないケースがまだあります。
この点は、現在も開示すべき記録には何が含まれているのかを明記した法律がない、という問題があります。医療機関の対応次第では、裁判所がかかわる証拠保全を行ったり、弁護士会を通して弁護士が照会の手続きをする必要があるケースも、残念ながらまだあります。
失敗しないためのカルテ開示の方法
ここでは、当事務所でアドバイスをしている、カルテ開示のポイントを解説します。
- 加筆修正履歴付きのカルテを開示する
- 開示期間を「現在まで」とする
- すべての診療科の記録を取得する
- 診療記録以外のデータも取得する
各ポイントを詳しくみていきます。
加筆修正履歴付きのカルテを開示する
診療記録、看護記録、退院時サマリー、看護サマリー、患者プロフィールなど、
作成者の職種を問わず患者について作成されたすべての記録を、必ず加筆修正履歴を含めて取得してください。
患者の情報は、日々診療をしている医師、そして看護師を含む「コメディカルスタッフ」と呼ばれる診療を支援するスタッフにより記録されます。入力を決定した後に、変換ミスを見つけた、入力忘れを見つけたなどの理由で、加筆修正は日々起こり得ます。その際の加筆修正は、「見え消し」と呼ばれる方法でデータとして残っています。
その「加筆修正履歴」を含めることにより意図的に変更された部分が無いか、不自然な変更点が無いかをある程度確認することができます。費用は増えますが、二度手間にならないように入手する方がよいでしょう。
開示期間を「現在まで」とする
開示の手続きをする時点で、病院を退院(死亡も含む)されている場合、開示の期間は「退院日まで」・「死亡日まで」と指定される方が多くいらっしゃいます。
この場合、退院日以降に入力されたカンファレンスの記録や、他院の医師と連絡した文書など、あとから取り込まれた文章は、開示されないことになってしまいます。
そのため、あとから追記された記録も漏れなく含まれるように、退院した日がはるか昔だとしても、「現在まで」の期間で開示することをおすすめしています。
すべての診療科の記録を取得する
例えば、出産のトラブルでカルテ開示をする場合、「産婦人科」のみを指定してしまうと、他の診療科がかかわる診療行為があった場合、そのデータは含まれません。基礎疾患がある場合などは、産婦人科以外で過去に診察を受けていたり、様々な診療科が関係している場合もありますので、かかわった診療科全ての情報を取得することをおすすめしています。
診療記録以外のデータも取得する
診療記録以外のデータも大切な情報です。
- 検査記録
「診療記録」は医師やその他のスタッフが記録したものを指すため、血液検査などの検査記録が含まれない場合があります。そのため検査記録と明記して開示する方がスムーズに開示されやすくなります。
- 画像データ(CD-RまたはDVD-Rにて開示)
「CT」や「MRI」などの検査機器を使用したデータです。医師から説明を受ける際に画面を印刷したものが渡される場合もありますが、元となるデータがDVD-Rなどの磁気ディスクに保存されたものを開示します。
- 画像検査報告書など(加筆修正履歴を含む)
CTやMRIを見て診断医が診断した記録です。こちらもできるだけ加筆修正を含んだものを開示するようおすすめしています。
- 手術動画、手術記録、麻酔チャートなど
手術に関する事故の場合には必須の情報となります。手術中に記録されたものはすべて取得しましょう。ただし、動画の記録は「撮影していない」とか、「保存していない」と言われて開示されないこともあります。
- 紹介状(診療情報提供書)
他の医療機関宛に書かれた「紹介状」です。
- 他の医療機関への照会・回答・連絡記録
他の医療機関でも診療を受けている場合、医師が個別に照会をかける場合があり、医師同士の正確な評価や考えが記載されているものがあります。
- 説明書・同意書
検査や手術の説明を受ける際に(緊急の場合は説明を割愛する場合もあります)サインを求められます。本人や家族に控えを渡されることがほとんどですが、病院で取り込まれている記録も取得しましょう。
- 診療報酬明細書
「レセプト」と呼ばれるものです。 - 出産時の事故の場合は、CTG(胎児心拍数陣痛図)やパルトグラムのデータ
カラー写真などが含まれる場合は、白黒ではなくできる限りカラーで開示してください。CTGは波形のわずかな変化も評価の対象になることがあり、画像の鮮明度によって見え方が異なる場合があるからです。
医療機関によっては、データ(PDF)の状態で開示可能な場合があります。その場合は紙ではなく、データでの開示をお勧めします。
ご紹介したポイントをおさえて、ご自身で開示してみる方法も!
情報が欠けていると、再度カルテ開示を申請することになってしまうことも珍しくありません。また、医療機関は出したくない記録は、こちらから指定しなければ出してくれないこともあります。もし今、自らカルテ開示を検討されている方は、ご紹介したポイントに気を付けて、手続きをしてみてください。
カルテ開示は、1回の手続きですべてうまく入手できることの方が少ないものです。足りない分は、適切に示せば再開示してもらえることもありますので、弁護士に依頼するほどのことではない…と思われている場合は、まず一度ご自身で開示してみるのも一つの方法ではないかと思います。
それでも不安な方は、開示手続き前に一度弁護士さんに相談してみられることをおすすめします。開示のアドバイスを聞くだけで、その弁護士さんの経験もわかります。