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協力すればご褒美3単位!院内医療事故調査 おかしくない?

2024年06月12日 | コラム

日本医療安全調査機構のホームページに、院内事故調査に協力すれば『専門医資格更新』の点数をあげますよ、という専門医に対する案内が載っていました。

多忙な医師業務に加えて、調査に参加することへの労いとのことですが、その内容には首を傾げたくなる内容が…

院内事故調査とは?

医療機関で事故が発生した場合、速やかに原因を明らかにするための調査をしなければならないと厚生労働省令で定められています。

医療法 第6条の11
「病院等の管理者は、医療事故が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(以下この章において「医療事故調査」という。)を行わなければならない。」

総合病院や個人のクリニックなど、医療機関の規模に関わらず調査を行わなければなりません
医療機関が自ら調査を行う場合においても、公平性、中立性を保つために外部からの委員を参加させるよう求められていますが、委員のメンバー構成についての法的な決まりはありません。

院内事故調査の目的

医療安全の確保のため、医療事故の原因を明らかにし、再発防止に役立てるものであり、医療従事者個人の責任を追及するためのものではないとしています。
そのため、事故にどの医者が関わったのかなど、人物が特定されるような情報は開示されません。

協力すればご褒美3単位!

専門医機構では、院内事故調査に協力した専門医に対して、学術業績・診療以外の活動実績として『専門医資格の更新の点数』への加算を行っています。
加点される点数は調査への支援内容によって下記のように決められています。

① 委員長として報告書作成した(例として3単位とする)
② 委員として調査委員会へ参加(例として2単位とする)
③ 報告書査読等、調査へ協力(例として1単位とする)

 

(引用元:https://www.medsafe.or.jp/modules/medical/index.php?content_id=35)

専門医って何?

「専門医はそれぞれの診療科において、その時点で科学的に証明された最も効果の高い医療を提供できる医師です。」(日本専門医機構HP引用)

各診療科において指導医のもとで3~5年の研修プログラムを受け、認定試験に合格しなければなりません。
5年ごとに更新が必要で、認定や更新の基準は学会ごとに異なります。

報告書の内容は関係ない

このご褒美制度に、報告書の「内容」は反映されません。

どんなに事故を起こした病院を擁護した内容の報告書でも、真の問題点を隠ぺいした報告書でも、調査に協力さえすれば「えらい、えらい」と褒められるのです。

さらに言えば、調査をする委員のメンバー構成にも決まりがなく、ズブズブの関係である病院教授を招いて調査をしても、それが公平で中立的な立場で作られた報告書だということになってしまい、その内容を検証するシステムは全くありません。

ごまかされる本当の問題点

当方のところには、全国の様々な病院の院内事故調査報告書が届きます。「ここまで踏み込んで検討してくださった!」と思える報告は、残念ながらまだ1割にも満たない印象です。

医者として報告書を読むと、嘘にはならないけれど、問題点をうまくごまかしているものがたくさんあります。

ケース1

総胆管結石を胃カメラで取り除くEST(内視鏡的乳頭切開術)で切りすぎてしまい、腸管に穴を開けてしまったケースでは、腸管に大きな穴を開けてしまったことで明らかに患者さんの体に大きな問題を引き起こした経過なのに、穴を開けていなくても、EST後に膵炎が起こることがあることを持ち出して、膵炎が一定割合起こるから仕方がない・・・というのです。

実際には、穴を開けて、そこから内臓を溶かしてしまう強い消化液が漏れて患者さんが亡くなったというのに。

一般の方には、仕方がないといわれてしまうと反論する機会も与えられず、問題はうやむやになります。こんな報告で再発防止につながるのか甚だ疑問です。

ケース2

手術中に正常部位を損傷してしまい、それが原因で患者さんが亡くなったケース。
報告書作成に関わったドクターは、誰一人患者さんの臓器標本の写真すら見ていなかったことが後から判明しています。

主治医は損傷は「1㎜の傷」と説明していて、その聞き取りだけをもとに(正しいことを言っていると考えて)報告書がまとめられ、医療事故調査センターにも送られています。
1㎜の傷では起こりえないことが起こっているのに、誰も疑問すら出さない。それも、各学会から推薦された錚々たるメンバーです。

節穴なのか、わざと主治医を守っているのか、どちらかとしか考えられません。

実際の臓器標本を見せてもらったところ、傷の大きさは10倍を超える「1cm以上」でした。バレないとでも思っているのでしょうか。

主治医の嘘がまかり通る院内事故調査に意味はあるのでしょうか?
その臓器の傷は患者さんの命の叫びだと思いました。

調査関係者を明かさない病院も

当方のような立場で、患者さん目線の検討をすべき、と声を上げる人が少なすぎると感じます。
ひどい病院は、調査に関わったドクターの名前すら秘密にします。

患者さんたちは一体誰を信じたらいいのでしょうか?

医師向けサイトでは、正直なコメントが寄せられていることもあります。「こんなことで死ぬはずないだろう…」と。
しかし、その真の声は、社会的立場から、患者さんには届きません。

そろそろ、皆で隠し合う、もたれ合いはやめた方がいいと思います。
患者さんたちの中にも医療従事者はたくさんいるのです。
せめて、院内事故調査報告書は調査委員として関わったドクター名も含めすべて開示することがスタート地点だと思います。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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