日本では今や2人に1人が癌になるといわれています。
早期発見が重要視されるようになり、検査法や治療法が進歩したことで救命率は上がっていていますが、がんの見落としによる法律相談・医療紛争も増えています。
当事務所でも「がんの見落としで病院に責任を問えるのか」、とお問い合わせをいただくことが多くあります。
このコラムでは、がんの見落としについて“病院に責任を問えるかどうか”のポイント、賠償金額の目安について解説します。
がんの見落としについて、弁護士への相談をお考えの方は参考にしてください。
見落とし=医師のミスとは言えない
見落としがあったからといって、全てのケースが病院や医師のミス(過失)だと言えるわけではありません。重要なポイントに沿って解説します。
見落としの期間
がんのできはじめは、目に見えない大きさですので、診断できるようになるまで一定の時間が必要です。
5㎜程度で見つけられるものもあれば、数センチにならなければ見つけにくいがんもあります。
見落としの期間(見落としといえる時期から発見されるまで)が、短い場合(数カ月以内)は因果関係の立証は難しいことが多いです。
がんの種類
がんの種類によって、見落としがなければ救命が可能であったかの判断が変わってきます。
悪性度が高いがん
悪性度の高いがんは、急激に進行し、発見時には血液の中や、周囲の臓器へ転移がみられるステージ4に至っていることも少なくなく、見落としの時期に関係なく亡くなっていた可能性が高いと判断されることがあります。そのため、交渉の難易度としては高くなります。
例:すい臓がん、肺癌(小細胞がん)、胆管がんなど
悪性度の低いがん
ゆっくりと進行するもの、治療後においても再発率の低いがんなどが悪性度の低いがんといわれます。進行が遅いため、早期に発見し、治療をすれば完治が見込めることから、見落としによって治療がされず、亡くなった場合などは因果関係が認められやすく、交渉しやすいケースが多いです。
例:乳がん、大腸がん、甲状腺がんなど
がんの症状があったか
患者さんに症状があった場合は、積極的に検査・治療をする義務が病院にあったといえますが、健診など無症状の患者に対してはその義務が認められにくい場合があります。
何の検査を受けたか
見落としと言えるためには、がんの症状に加えてCT画像、レントゲン検査、腫瘍マーカーの検査データなど、客観的な証拠が必要なことが多いです。
どんな状況で見落とされたのか
見落とされたのが、集団の健康診断なのか、症状があっての受診なのかによってもミス(過失)があったかの判断は異なります。
集団健診(胸部レントゲン)など、短時間で大量のデータを読影しなければならない状況で、技術的にも通常の診察より制約された条件の中では、医師の注意義務がないとされた裁判例もあります。
見落とし前後で治療方法は変わったか
見落としがあった前後で、患者に対する治療方法が変わらない場合は、損害は無いとみなされることがあります。損害がなければ損害の賠償は請求できません。
賠償金額(損害金額)はどうやって決まる?
存命or死亡
患者さんがご存命なのか、亡くなっているのかによって賠償金額(損害金額)の算定目安は大きく異なります。
金額算定の目安
- 死亡の場合
死亡慰謝料 約1000万円~最大2800万円程度 - 存命の場合
見落としについての明確な基準がないため、損害賠償額算定基準の通院慰謝料をもとに損害額を計算することが多いです。
例えば、目安として1年の見落としであれば約150万円となります。(下図を参照)
弁護士費用を差し引くと受け取れる金額はごくわずかということも
がんの見落としについて、交渉や裁判の結果、賠償金が得られたとしても、手元に残るのはわずかな金額になることは珍しくありません。
特に、患者さんがご存命の場合は、賠償金額が低くなるのが現状なので、弁護士費用が最低でも20~30万円かかることが多く、負担に感じることもあるでしょう。
見落としの期間が短かったり、過失の有無・因果関係の立証が困難なケースについては、弁護士に依頼して、赤字になってしまうこともあります。
他には、がんの見落としがあったとしても、その後の治療によって幸いにも完治されたケースなども、病院に賠償を求めることは難しくなります。
患者様やご家族にとっては、交渉ができる・できないにかかわらず病院に対しての憤りは同じであると思いますが、弁護士に依頼すべき(依頼するメリットがある)ケースとしては、見落としの期間が長い、亡くなった、あるいは重い後遺症が残ったなどの、重大な結果がある場合と考えます。
当事務所では、患者さんやご家族にとって弁護士に依頼することのメリットとデメリットについて、お問い合わせの段階でできるだけご説明をするようにしています。