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全身麻酔“抜歯”17歳が死亡…食道挿管の報道を読んで感じたこと

2023年12月19日 | コラム

全身麻酔“抜歯”17歳が死亡…酸素チューブ誤って食道に 遺族「まさか命落とすとは」2023.12.18(テレビ朝日:テレ朝news報道を読んで)

テレビ朝日のテレ朝ニュース報道で、17歳の生徒が、親知らずを抜くための治療中に低酸素状態に陥り、1カ月後に死亡していたと報道されており、「まだこんなことが起こっているのか」とショックを受けました。

歯科治療の際の麻酔事故は、これまでも何度も起きており気管挿管した際に誤って食道に挿管してしまい、脳に酸素が行かないまま低酸素脳症や死亡に至るケースは後を絶ちません。

明らかな医療ミス

報道によると、刑事手続の捜査中ということでしたが、医学的には明らかな医療ミスと言うしかないケースです。

食道挿管というのは、気管に挿入するはずの挿管チューブを声帯から気管に正しく入れられず、食道の方に入れてしまい、そのまま気づかないことで起こる医療ミスです。

気管挿管をする際には、ブレードという直角に曲がった道具などを使って、邪魔になる舌(べろ)を押し下げながら、声帯の部分を医師が目で見ながら、チューブを声帯の向こう側まで挿入します。
体の個人差があるため、声帯の部分が確実に見えない状況で挿管をせざるを得ないことはありますが、その場合、きちんと声帯のところに挿入できず、誤って食道に入れてしまう可能性がありますので、挿管したあとには、必ずチューブから空気を送り込んでみて、胃袋のブクブクという音がしていないか、きちんと肺の音がしているか、を聴診器で確認しなければなりません。

また、肺に空気が入っておらず、食道に空気が入り続けると、胃がパンパンに膨れてきたり、指先に付けた酸素飽和度を測定する「サチュレーションモニター」が、100%以下に低下してくることで、「もしかして食道に挿管してしまっているかも」と気づけたはずです。

なぜ事故は起きてしまったのか

報道では、特別支援学校に通う富川勇大さん(17)が大阪府にある堺市重度障害者歯科診療所で親知らずを抜くために全身麻酔をした際、肺に酸素を送るため気管に入れるチューブが誤って食道に挿入され、低酸素状態に陥り、その後、心肺停止の状態で病院に搬送されたとありました。8月に低酸素脳症で死亡したと報道されていましたが、全身麻酔をする準備をしていたのであれば、その場で気づけばすぐに抜管することで、低酸素脳症になることはなかったはずですし、全身麻酔を行う準備をしている状況、というのは心肺蘇生としてフルコースの対応ができる環境にあったはずです。

それなのに、心肺停止になるまで気づかなかったとすると、酸素飽和度や血圧、脈拍などのモニタリングができていなかったか、歯科医師あるいは補助する立場の看護師などがモニターの数値を見ていなかったか、あるいは、そもそもモニターの値を見る能力がなかったのではないかと考えます。

ご遺族が不信感を抱くのは当然です

 お父様のコメントは「最後に言葉を交わしたのは、(治療の日の)朝に『頑張って来いよ』の一言だけだったので。まさか命を落とすとは思っていなかった」と書いてありました。当然のことです。それも事故を起こした診療所は、重度障害者の歯科診療を行うところで、日頃から気管挿管をして全身麻酔下での歯科治療を行っていたはずです。ホームページでは、全身麻酔について「体動がなくなるので歯科治療が安全かつ確実に行える」、「気管挿管を行うので、呼吸に関しては、完全な管理が行える」と書かれていることが、嘘だったのかと思われても仕方がありません。

ご遺族が、事故を「二度と起こしてほしくない」と思われることも当然です。歯科治療での麻酔事故はこれまでも繰り返されてきたのです。そのため、歯科医師にも気管挿管をはじめとする初期研修医と同じように、研修が義務付けられ、今は、医師・歯科医師のみならず救急救命士の方々も気管挿管は許されています。
救急救命士が食道挿管をして患者を低酸素にしてしまったという様な報道をあまり聞かないのは何故かといえば、救急救命士の方々の方が、きちんと食道挿管ではないか、事故がないよう聴診し、酸素飽和度を確認するなど厳しく指導されておられるからです。

 いまだに、何故、こんな初歩的なミスがなくならないのか?と悲しい気持ちになります。また、その後の対応も、報道を見た限りでは遺族の不信感をかっても仕方がないと思いました。
事故の数日後に、診療所から気管に入れるチューブが誤って食道に挿入された可能性があるとして謝罪と説明を受けたとありますが、お父様が「誤挿管にしても、救急車を呼ぶのが遅れたということに対して、今後どういうふうにするか。どういう考えを持っているかという話も一切ない。」と話しておられたことは、まさに今回のミスの本質を突いていると思います。

何故、明らかな医療ミスであるのに、迅速に、正確な報告ができないのか、その様な態度だからこそ、何度も事故が起こるのだということを自覚することから始めるべきだと感じました。本当にひどい事故です。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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