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裁判で公平公正な判断をするために、技術の導入を!

2023年09月26日 | コラム

専門家でなくても下手な手術は見ればわかる

「医療ミスに違いありません。」「手術ビデオを見てください!」そう言って当事務所に来られる患者さんやご遺族がたくさんおられます。ビデオを見れば「雑な手術だなぁ」「下手な手術だなぁ」ということがすぐわかります。例えば、皆さんが、交通事故のテレビ番組を見ていれば、車のドライブ・レコーダー画像から、「荒い運転だなぁ」「無茶なブレーキ、アクセルの使い方だなぁ」と直感的にわかるのと同じです。

もちろん難しい手術で丁寧に操作しても正常組織を傷つけてしまうことがある、ということは私自身、よく知っていますし、そのような、本当に仕方がないケースは、正直に患者さんやご家族に伝えるようにしていますし、本当に難しい手術で仕方がなかった合併症だと思うケースは、無理な交渉や、無理な訴訟をすることも私は、勧めません。

しかし、下手な手術は、下手といわなければならず、裁判官にもいかに下手な手術だったかをどうにかして説明しなければなりません。

これほど、カメラを使いモニターを見ながら行う手術が広がり、腹腔鏡や胸腔鏡、その他の内視鏡が全国的に広く普及してきたのに、いまだに、裁判では裁判官は、上手か下手かよくわからないから、鑑定人に判断してもらいたい・・・などと自分で判断することを回避する傾向は、今も変わりません。上手い手術の動画を見ればすぐわかるのに、と思います。

ドライブ・レコーダーなら、見れば一目瞭然なのに、手術ビデオだからといって、専門家に見てもらわないとわかりません・・・なんてことが許されるのでしょうか?ビデオを見れば明らかです。だからこそ、裁判官に公平な判断を正しくしてもらおうと様々な努力をします。それでも「画像はよくわからない」といわれてしまうので、何とか、手術ビデオをコマ送りの写真にしてパラパラ漫画のようにして説明し、これでもわからないのか、と解説を加えて提出したりもします。

それでも「わからない」、鑑定人に聞きたい、などと言われると、裁判官は、理解しようとしていない・・・と落胆するしかありません。

鑑定人の忖度?

では、なぜ鑑定人ははっきりと言わないのか。これまで、何十人もの鑑定人の鑑定書を見てきましたが、医療裁判で裁判に出てこられる鑑定人は、たいてい大学教授や総合病院の部長クラス以上の先生方です。そして、8割以上の鑑定人は、医師である私から見れば、「医療機関側に不利なことを書くのはそんなに怖いのかな」「なぜ下手で荒い手術だったから、傷つけてしまったと、正直に書けないのだろうか」と感じる内容がたくさんあります。

例えば、先日も、手術ビデオに「うっかり見ていなかったから静脈を切ってしまった」画像がしっかり写っていた裁判のケースがありました。

執刀医は、下手で荒い手術器具の使い方をする大学病院の偉い先生でした。専門雑誌には、こうやって手術をするんだよ、と書いておられましたが、ご自身の手術では自分で書いたとおりにはしておられなかったようです。

手術でも、車の運転と同じように、見えていないところには危険があるかもしれない、と考えて安全を確認して進めていくことは同じです。それなのに、モニターに写っている画像をよく見ておらず、お箸のような器具を使って脳腫瘍をとっている途中に、器具の先端がよく見えていないところに器具を突っ込んで、大事な静脈を、うっかり器具の片方の先に引っ掛け、次の操作をしようと勢いよく器具を動かし、重要な静脈を引っ掛けて切ってしまいました。その結果、重要な静脈だったので、若い患者さんが寝たきりになりました。

執刀した、大学病院の偉い脳外科医師は、訴訟中に大学教授になりました。

誰が見ても、見ればわかるミスだ、と裁判所に訴えましたが、大学病院側は、お友達の別の大学病院の教授に頼んで「術前の状況から判断して致し方ない範囲です」と書いてある意見を出してきました。原本はこちらです。

        (大学病院側から提出された某大学病院の脳外科教授の意見書から抜粋)

私は脳外科の専門家ではありません。それでも、みなさんがドライブ・レコーダを見れば、下手な運転がわかるように、手術ビデオを見れば、荒い手術かどうか、くらいはわかります。外科医時代に、腹腔鏡や胸腔鏡の先輩たちのうまい手術も下手な手術も見せていただいた貴重な経験もしていますし、上手い先生は、安全でないところや、見えないところに器具を挿入するようなことはしませんでした。私がそのような操作をすると、きつく怒られました。器具の先端を確認せずに術野に突っ込むようなことがいかに危険で命取りになるか、よく教えられました。

それなのに、医療訴訟の裁判になると、お箸を見えないところに突っ込んで静脈を傷つけてしまっても「致し方ない範囲」「許容される範囲」だと、大学教授が書くのです。車の運転で、うっかり前を見ないままアクセルを踏みましたが致し方ない範囲、で許されるでしょうか?

この意見書は、病院側のドクターに協力する立場の先生から提出されたものですが、こんなことを書いても、誰からも批判されず、意見書が人目にさらされることもないため、自由な内容を書いてこられます。

また、第三者としての立場であるはずの鑑定人も、公平・公正とはいい難いのが現状です。鑑定人が、本当に公平・公正なら医師として鑑定手続きは有用だと思いますが、実際には、学会推薦で選ばれた偉い大学教授が、同じ学会内で、理事同士仲良くしている先生の批判をすることは考えにくいですし、学会の理事長や評議委員にむかって、あなたの手術は下手ですね、と言える人はいないようです。

鑑定人の書いた鑑定書は、もっと公に、皆さんの目に触れるところに公開すべきです。特に、学会推薦で選ばれた鑑定人が、どんなケースで、どんな鑑定書を書いたのか、公開することがなければ、公平・公正な鑑定手続きなんて夢物語です。

AIなら忖度なし

 最近、AI技術の進化により、手術ビデオをAIに判断させて手術をしてよいかどうかの技術認定をする、ということが、いよいよ日本でも始まりました。国立がん研究センターで、専門家による腹腔鏡手術60症例の映像を学習した手術技能評価AIが開発され、今後、学会による技術認定審査の補助や、他臓器の腹腔鏡手術へ応用可能な幅広い手術技能評価システムとしての実用化を目指すということのようです。今回のAIを開発した、国立研究開発法人国立がん研究センター 医療機器開発推進部門の伊藤雅昭部門長の研究グループの発表されていることからすると、外科医の手術技能の評価については、熟練医が手術画像を目視して評価するため、評価者の労力と膨大な時間が必要であることに加えて、認定する人がどう感じるか、という「主観性」が排除しきれず、トレーニングや技能向上にも活かしづらいという課題を克服することにあるということです。そうですよね。誰も偉い大学教授に今更手術が荒くて下手だからやめた方がいい、とは言いにくいでしょう。私も、手術はうまくない先輩の手術を見て、「あんまり外科医のセンス無いなぁ」と思うことはあっても、「それはダメでしょ」とは言えませんでしたし。

画像認識AIの評価で、客観化・定量化することができるという考え方は、患者さんにとって素晴らしい進歩だと思います。何より、徒弟制度のような外科医の世界で、忖度なく下手な手術は下手だ!と言えることは画期的です。

世界的に有名な雑誌にも発表されていますので、英語ですが、興味のある方は読むこともできます。

Automatic Surgical Skill Assessment System based on Concordance of Standardized Surgical Field Development using Artificial Intelligence(JAMA Surgery)

AIにズバッと言ってもらえたら助かるのでは

 今回、裁判になった手術も、是非、AIに判断してほしいものだと思います。偉い大学教授だからとか、大学教授の知り合いが多いからとか、そんなことはAIには不要な情報でしょう。下手なものは下手だし、荒い手術、下手な手術をする人には認定を与えず、きちんとトレーニングしてもらう方向性になれば、医療ミスで悲しい思いをする遺族も減るでしょうし、医療事故の裁判も、もっと減るでしょう。腹腔鏡やロボット手術にこだわり続けて開腹手術に切り替えない外科医には、警告アラームを発してくれるAIもいずれ出てくるでしょう。ロボット手術ダビンチでの手術にこだわったために、出血多量で手術台の上で亡くなる患者さんはなくなるでしょうし、外科医に物が言えない麻酔科医も助かるはずです。

裁判官が「専門家ではないので・・・」と逃げる必要も、頭を抱える必要もありません。

技術で直感的に理解できる医療を

 実際の裁判では、問題となった手術動画をゆっくりと再生し、素人である裁判官にもわかりやすく説明しながら、実際の手術器具と同じようなものを手にとって、実感してもらう方法や、出来るだけビジュアルに訴え3D画像や3D動画を作ることも始めました。分娩の経過を理解してもらうために吸引分娩の機械も購入して実験して動画を作ったり、お産のシュミレータをつかって事故を再現する動画を作ったり、何とかして裁判官にも直感的に理解できる方法はないか、考えています。

医療裁判を裁判官にとっても判断できるものにしていきたい、日本の医療裁判を少しでもまっとうなものに変えたい、と思って試行錯誤する毎日です。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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