医療ミスとは、何か?
皆さんは医療ミスと聞いたときにどういったものを想像するでしょうか。医療ミス、医療事故、医療過誤、いろいろな言葉がありますが、実はその定義に決まったものはありません。医療ミスというのが最も一般的な言葉でしょう。
医療事故は、必ずしもミスがあったとは限らず、医療に関係する事故全般を含む言葉です。医療過誤という言葉は、弁護士や保険会社といった損害賠償事件を扱う専門家たちが使う言葉です。過誤はあやまち、過失の意味です。
法律家である私たちが使う医療過誤という言葉は、単に医療現場で起きた事故やミスを指すわけではありません。まず、医療機関が行った医療行為の中で、行うべき義務がある者に対して、その義務を行わなかったときにそれは「過失」ということになります。
「義務」がなければ「過失」は出てこないのです。
ご相談者様の中にはここを混乱されている方がたくさん居られます。こうして欲しかった、ああしてくれていればというたくさんの疑問や思いを持っておられるのですが、それが果たして法律上「過失」と言えるかは、法的な判断と医学的な判断を総合的に合わせて考慮しなければわからないことも多いです。加えて、医療過誤だと言うためには、過失以外に、亡くなったという結果や、後遺症が残ったという結果があることが大前提です。
例えば病気が治ってしまった場合には、基本的にはもう損害はなくなったということになってしまいます。そのため、損害がない場合に損害賠償請求をするのは難しいです。そのあたりは苦しい期間が長ければ長いほど、苦しんだ分の精神的慰謝料を、という考え方もありますが、概略を言えば、損害賠償請求と言うのは、損害が起こって、その損害に代わる賠償を求める権利と言うことになるので、基本的には損害があることがスタートになります。
また、過失と損害その2つがあっても医療過誤と言えるわけではありません。もう1つ、過失と損害の間に因果関係が認められなければなりません。
医療過誤の裁判において、最も難しいと言われている証明が、この因果関係の証明です。
例えば、するべきことをしてくれなかったというのが過失、そのために患者さんが亡くなってしまったという結果、その上でするべきことをしなかったために亡くなったと言う因果関係が認められる必要があります。医療裁判においては、この3つの過失、損害、因果関係、すべてについて患者さんたちが証明していかなければならないのです。
医療ミスという言葉には、一般の方々がこれはミスだと思うものがたくさん含まれています。大きなミスから小さなミス、そして亡くなったり、後遺症にはつながらないものも含めて広くミスがあれば、医療ミスと言うことになります。言葉の定義は正確なものではありませんが、医療ミスと言うのは、一般的に医療過誤と言う言葉よりも、もっと広く小さなミスも含むそういったニュアンスで使われることが多いように思います。
弁護士が関わる損害賠償請求を行うための医療過誤と言う場合には、過失があり損害があり、そして因果関係が認められるか、そういった法律的な視点を持って医学的な資料、特にカルテや画像を評価しなければならないのです。それができなければ損害賠償請求ができるのか、あるいは裁判をして病院と戦えるのか、といった点は明らかにはなりません。
医療過誤の裁判において、なぜ医学的な知識を持っていることが必須なのか、このお話を読んでいただいた方にはご理解いただけると思います。