岐阜県各務原市の東海中央病院で、同じ男性外科医による肝臓がんの手術中に患者が死亡し、病院側が医療事故として扱わなかった事案2件あり、県が再検討を求める指導をしていたことが12日、分かったとの記事が公開されました。
Webニュースでの情報の限りでわかることは、亡くなったのは2016年2月に肝細胞がんで手術を受けた60代患者と、昨年2月に肝臓がんで肝部分切除の手術を受けた70代患者が、いずれも手術時に大量出血で亡くなったということ。そして、病院は院内の検討会などで治療内容を検証し、医療事故には該当しないと判断していたこと。
外科医師の感覚でこの記事を見ると、止血は外科医の基本ではないか、術中の出血死は外科医にとっても麻酔科医にとっても最悪の悪夢で、信じられないという感覚を持ちます。医師が多数登録しているm3.comの投稿も外科医、麻酔科医がそのような意見に賛成者が多数います。当然のことでしょう。
病院の院内事故調査や検討会が無意味で、病院側の利益しか考えていないものであることが露呈したということでしょう。院内事故調査と言いながら、実際には患者さんの視点になっていないような事故調査は、全国各地、大病院から中小病院まで多数あります。医師の目から見れば、明らかにおかしな院内事故調査を見るたびに、日本の医療安全がまだまだ名前だけだと感じます。このニュースをみて、改めて残念な思いを持ちました。こんな事故が医療事故でないという判断をした院内の検討委員会のメンバーも、事故を起こした外科医達と同罪です。事実を隠されることで遺族は大切な人をなくした悲しみに、さらに追い打ちをかけられて人間不信に陥っていきます。そんなご家族をたくさん見てきました。この件は、県が再検討を求める指導をしたというもの当然で、そのきっかけは「外部からの情報提供」だとあります。医療機関にも心ある医療従事者はたくさんいますし、私のところにも匿名での情報の連絡があることもあります。事実を隠すことが、病院内の医療従事者の士気を下げているということに気づいてほしかったと思います。
県は、同12月、患者や遺族側へ適切に死亡リスクや経緯を説明したかなどの調査が必要とみて、病院に再検討を求めたということですが、そもそも手術手技に問題があったケースだと推測できます。肝癌の手術には、常に死亡リスクがありますが、多くの真っ当な外科医の先生たちは、患者のために出血死させないように日々、戦っているのです。手術による出血死という外科医にとって最も恥ずべきことをしておいて、その後も反省なく手術をしている外科医も、1件目で調査をしなかった病院も、世の中の外科医達に対して失礼な態度と言わざるを得ません。病院は、18年8月にこの男性外科医が手術した別の70代患者が死亡したのを受け、国の医療事故調査制度に基づいて調査し、報告書では、手術時の処置は適切ではなかったと指摘し、同様の経験がある医師が助手に入る再発防止策も提案していたといいますが、2016年2月の時点で患者の命を顧みる良心が誰にもなかったのか、と悲しくなります。