肝臓がん患者の肝臓一部切除において、大量出血による死亡が同じ外科医で2例あったとの報道がありました。ショッキングな内容ですし、外科医にとっては「大量出血による死亡」は一番起こしてはいけない事態です。
手術の前には、肝臓がんの部位もCT,MRI等で十分評価して、どの血管を処理して肝臓をどの部分まで切除するのかを予定して行うはずですが、その事前準備が行われていなかった可能性があります。肝臓がんの患者さんは、C型肝炎やB型肝炎、アルコールなどの影響で、もともとも肝機能にも異常がある事が多いため、肝機能の状態や限界も術前に必ず評価する必要があります。さらに、肝臓は血流が豊富な臓器であるため、もともと出血しやすい臓器ですし、ウイルスやアルコールの影響によって、肝硬変の状態にあれば、出血を止めるための機能である血小板の数値も低下していることがあり、より一層出血しやすい状態にあることも多いです。そのため、肝臓がんの手術においては、術前の肝機能の評価は極めて重要であり、その評価が不十分であると、術中の出血に対応できないことも起こりえます。さらに、肝臓以外の臓器についても手術の前には、必ずチェックしますし、呼吸機能検査、心電図検査なども行っていたはずです。
手術において「大量出血して死亡する」ということは、基本的に術前の準備不足や、手術中の予期しない血管損傷が関係しているはずであり、病院側の説明「予期せぬ死亡ではない」という説明は間違っている可能性が高いです。マスコミ報道の範囲内でしか状況はわかりませんが、術前のリスク説明についてカルテ記載されていない、という報道もあり、術前の肝機能評価が十分に行われないまま、大丈夫だろう、と手術を行ったことが推測されます。
現在、県が行政指導を行っている、ということですが、患者さんの立場で検討する人がいるのか、不安を感じます。患者さんのご遺族に対する説明が十分に行われ、病院が適切に補償をすることが必要だと思います。