医療ミスの事案概要
近畿地方の公立総合病院で良性の脳腫瘍(髄膜腫)が偶然見つかり、症状が出現前に摘出手術を行ったところ術直後から半身不随の後遺症が出現し回復しなかった事案です。
相談後の経緯
手術をしたお母様のことについて、息子夫婦が相談に来られました。手術の前には臭いがわからない(嗅覚異常)以外の症状はなく、元気だったのに手術をした途端に半身不随の状態になったため医療ミスがあったのではと考えたということでした。それも腫瘍は、良性でゆっくり大きくなるものだから心配ないといわれていたのに、なぜこんなことになったのか、医療機関に対する不信感があったようです。
相談後に早速、カルテ開示手続きによってカルテを入手したところ、脳外科手術の際に顕微鏡を使っていたことが判明したため、顕微鏡の画像を保存しているはずだとして病院側に手術ビデオの開示も求めました。公的病院であったため、個人情報開示としても開示するよう求めたことが効果的だったと思われました。
手術ビデオの検討
カルテを検討した結果、このケースでは手術中の操作が問題であることがわかったため、8時間にわたる手術ビデオを全て検討し、腫瘍を摘出する際に、見えやすくするために正常な脳を押す器具「脳ベラ」の使い方がかなり乱暴であることが判明しました。その他には、半身不随の原因となるような手術操作はありませんでした。
交渉の経緯
手術ビデオの検討結果を踏まえて病院側に賠償を求める通知を出したところ、当初は「全く責任はない」という回答でした。しかし、手術ビデオの問題ある箇所の画像を切り取って、問題点を書き加えたものを送付したところ、病院側から再度検討したいという回答がありました。後遺症を全てカバーする金額ではありませんでしたが、ご家族と検討した結果、訴えて裁判所に脳外科手術の不適切な点を説明することは困難が予想されることや、御本人の命ある間に残りの人生を楽しませてあげたいことなどを考えて、あえて裁判に訴えることはせず、約1000万円の示談を受け入れることになりました。
富永弁護士のコメント
髄膜腫(ずいまくしゅ)は、良性の脳腫瘍として頻度が高いものです。ゆっくりと大きくなるため症状がない期間も長く、症状が出現してきたときにはある程度の大きさになっています。良性であるため正常な周りの脳を傷つけてまで全摘出にこだわる必要はないもののはずですが、正常な脳に過度の圧迫をしてしまったり、手術器具で傷つけてしまったりすることで術前になかった症状が術後に出現してしまうことがあります。脳外科の手術で後遺症が出現したケースは、合併症なのか、医療ミスなのか、その判断に迷うケースも多くあります。今回のケースでは、「脳ベラ」という手術器具で、脳を過度に圧迫してしまったことで正常な脳を傷つけたと考えられましたが、脳ベラを使うこと自体は、問題なく、必要な操作であるため、裁判をして医療ミスであるという主張が全て認められるかどうか、慎重に判断せざるを得ませんでした。御本人、ご家族のお気持ちを何度も確認し、示談・裁判のメリット・デメリットも十分考慮した上で、後遺症をカバーする金額ではありませんでしたが、示談を受け入れることになったケースです。