妊娠中毒症で高血圧、脳出血を起こしたケースについて、脳外科に搬送するべきだったとして医師の責任を認めた
東京地裁 平成4年5月26日 判タ798号230頁
妊娠末期の重症の妊娠中毒症患者に対して入院させずに経過観察をしていたが、腹痛、頭痛、嘔気、背部痛の訴えがあり、入院、症状が悪化して死亡した結果、死因は高血圧性脳出血であった。このケースでは、高血圧になっていた状況で、適切な措置を取らずに脳出血の症状を見逃し、脳出血を疑って脳神経外科に転院させるべき義務に違反したとして医師に責任を認めた。
妊娠中毒症は、たとえ軽症でも陣痛促進剤を使用するなどして血圧が上昇すれば脳出血の危険性が高まる可能性がある、ハイリスクな状況である。そのため母体の状態を十分観察しつつ、頻回に血圧測定を行って血圧監視が必要だと判断されやすい。東京地裁 平成13年1月31日 判タ1072号221頁では、軽度の妊娠中毒症患者に陣痛促進剤が投与され、増量されたことで血圧が上昇し、脳出血に至ったと思われるケースで、脳出血の予見可能性について、当時の妊産婦死亡率は低いものの、脳出血は死亡原因の2位、脳出血、くも膜下出血をあわせて妊婦死亡の13.7%を占めていることから、脳出血はまれとはいえず、患者が妊娠中毒症であったことも考えると、陣痛促進剤による血圧上昇作用と陣痛誘発によって脳出血の可能性が高まることは予見できた、と判断している。そのうえで、血圧監視義務は、少なくとも1時間に1回程度は血圧を測定するなど血圧監視を行うべきであったとして、分娩監視装置による観察は行われていたが、それだけでは全身状態の観察は不十分であると判断している。