乳房温存を行っていない医療機関の医師に、乳房温存療法の説明責任を認めた
最高裁 平成13年11月27日 判時1769号57頁
平成3年当時、乳腺を専門とする開業医が、当時比較的新しい治療法であった乳房温存療法についての説明を行うことなく、従来の方法である乳房切除術を行った。これに対して判決では、当時の乳房温存療法の欧米での成績、わが国での実施状況、全乳がん手術における割合を考慮し、わが国ではまだ実施報告数が少数で経過観察期間が短かったが、一定の要件の下で、医師に医学水準を超えた説明責任を認めた。
一般的には、実施予定の治療法が医療水準として確立したものであるが、他の治療法は医療水準として未確立であった場合、医師は後者について常に説明責任を負うとはいえない。ただし、このような未確立な治療法であっても医師が説明義務を負うと考えられることもあり、少なくとも、当該治療法が
- 少なくない医療機関において実施されており、相当数の実施例があって、
- 実施した医師間で積極的な評価がされているというものについては
- 患者が当該治療法の適応である可能性があり、かつ
- 患者が当該治療法の事故への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることがわかった場合においては、
たとえ、医師自身が当該治療法について消極的な評価をしており、自ら実施する医師のない場合であっても、患者に対し、知る範囲で当該治療法の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該治療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある、として担当の説明義務違反を認めた。
この判決は、水準以上の説明責任を認めた判例として、有名なものである。当時と状況は異なるため、乳がんの治療では、今後は乳房再建などが対象になる可能性がある。また、他の先進的治療についても、過渡期にある治療法については、同じ問題が生じてくる可能性がある。