乳がんの見落としについて医師の責任を認めた
東京高裁 昭和58年6月15日 判時1082号56頁
乳腺腫瘤を認めた医師は、まず第一に腫瘤が乳がんでないかどうかを検査するために専門医療機関を受診するように説明・指導すべき注意義務がある、として乳腺エコー(超音波)を行っていた産婦人科医に対して、4か月半の診断遅延について医師の過失を認め、相当程度延命できていたとして慰謝料を認めた。
このケースのように、乳がんの診断が遅れたケースについては、産婦人科の開業クリニックで乳腺エコー(超音波)を実施し、腫瘤を見逃して診断が遅れたケースが多い。現在は、乳腺外科を専門とする医師が増え、腫瘤を疑い自らに診断能力がない場合は、適切に乳腺外科に紹介する義務があると判断されるケースも増えると思われる。マンモグラフィーと乳腺エコー(超音波)の両方ができない施設では、できる施設に紹介することが求められる。
一方、マンモグラフィーや乳腺エコー(超音波)検査で典型的な悪性所見が見られない場合には、直ちに医師の責任は認められていない。経過観察をすべき義務や、生検などの検査をすべき義務について、個々のケースに応じて評価をする必要がある。