医師の受け入れ拒否が、応召義務違反と認められた
千葉地裁 昭和61年7月25日 判例時報1220号118頁
医療機関には、国民の健康な生活を確保する公共的役割がある。そのため、診療に従事する意思は、診療治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない(医師法19錠1項)ことになっている。一般的には「医師の応召義務」といわれている。この義務に違反しても、刑事罰の規定はないが、患者に損害を生じた場合には、医師の過失が認められ、診療拒否した正当な理由がない限り民事上の賠償責任を負う。
この判例では、気管支ぜんそくの小児が、満床を理由に受け入れ拒否され、遠方の小児科に搬送されて死亡したケースである。判決では、診療拒否の「正当な理由」について、原則として医師の不在・病期などにより事実上診療が不可能な場合を指し、ベッド満床が正当な理由になるかどうかは、患者の状況、医療機関の人的・物的能力、代替医療施設の有無などの具体的状況による、とされた。また、このケースでは付近に小児科の入院施設を備えた病院がなかったことを指摘して、ベッド満床であったとしても、とりあえず救急室か外来のベッドで診察・点滴などの応急の治療を行い、その間に患者の退院によってベッドが空くのを待つという対応をとることも300床以上の病院では可能であった、として診療拒否の正当な理由がない、とされた。
応召義務違反については、従来も複数の判決がある。例えば当直の医師一人で、その意思が重症の患者を抱えていた事情や、適切な処置のためには他の科の専門医を受診させたほうが良いと判断したような事情がある場合には、受け入れ拒否も、正当な理由ありとされている(名古屋地裁 昭和58年8月19日)。しかし一方で、第3次救急医療機関がかぎられていた状況の中で、外科が当直し、整形外科が自宅待機していた医療機関が交通事故による肺挫傷と気管支破裂患者の受け入れを拒否したケースにおいて、受け入れの正当な理由はない、と判断している。
第3次救急医療施設は、救急での対応を期待されている以上、満床・専門医不在などの事情は、正当な理由とは判断されない傾向にある。