喘息患者に対するアスピリン(NSAIDs)投与は医師の責任が認められる
前橋地裁 平成10年6月26日 判時1693号110頁
気管支喘患者の中には、アスピリンなど非ステロイド系抗炎症薬(いわゆるNSAIDs)によって喘息を誘発される。慢性喘息患者は、3割程度がNSAIDs過敏症であるといわれているため、NSAIDsを処方する前には、喘息歴があるかどうかの問診が重要である。
上記判決は、19歳から喘息と診断されて経過観察されていた27歳女性が、NSAIDsの一つであるインドメタシン座薬を投与されて、20分後に起座呼吸となり、10分後に呼吸困難、呼吸停止、心停止に至ったケースで、解剖結果から、気管支喘息発作による呼吸不全が死因と診断された。インドメタシンを投与した医師に責任を認めた。その理由として、今まで経過観察していた医師への情報提供を求めるべきだった、患者に危険性と必要性を説明して自覚症状を報告させるべきだった、投与量の漸増させる方法をとるべきだった、救急救命具の点検不十分、起座呼吸の段階で喘息発作と診断できなかったのはミスである、とした。
ある疾患に対してリスクの高い薬はあらかじめわかっているものもたくさんある。基本的には添付文書に禁忌、慎重投与の記載があるものは、事前の問診が重要である。たとえ患者が大丈夫だ、といったとしても、患者の記憶の正確性、薬剤商品名、投与した医師名などの確認をしなければ、医師の責任は免れない(松山地裁 今治支部判決 平成3年2月5日 判タ752号212頁)。
禁忌・慎重投与患者に対して、投与が許されるのは、(1)代替薬がない場合、(2)慎重投与項目に対する問題点を考慮してもこれを凌駕する他の作用における卓越性が期待される場合、(3)問診などにより、当該薬剤に関して過去における重大な副作用がない場合で、かつ(4)患者側の承諾が得られた場合、といわれている。リスクよりも効果が上回る場合に、緊急事態に備えた万全の体制を整えたうえで投与が許される、と医療機関側には厳しい判示である。