医学的適応があるかどうか説明責任が尽くされず、患者の同意が有効でないとして慰謝料が認められたケース
東京地裁 平成16年 2月23日
一般的な適応を欠く経皮的冠動脈形成術(PTCA)を実施した患者が死亡した事故について、経皮的冠動脈形成術の説明義務違反があったため、患者の同意が正当な医療行為としての同意としても、自己決定権の行使としての同意としても有効性を欠くとして、医療側に損害賠償請求が認められたケース。
このケースは、患者に自覚症状はなかったが、心電図異常を指摘されたため、Yが設置する被告病院を受診し、精密検査を受けた結果、冠動脈に狭窄病変があることが判明した。そこでAは、平成12年2月、被告病院において、左前下行枝中間部に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)を受けたが、同年5月に再狭窄が確認されたため、再度、左前下行枝(冠動脈のうちの1枝)中間部に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)を受けた。しかし、本件PTCA施行中に左前下行枝中間部に穿孔が生じて心タンポナーデになり、心のうドレナージ等の対処がなされたが、さらに左冠動脈主幹部に血栓性閉塞が生じて血流が低下し、緊急の冠動脈バイパス手術(CABG)が行われたものの、血流の回復が得られず、死亡するに至った。
争点は、(1)医学的な適応(本件PTCAを施行すべきでなかったのに施行した)、(2)説明義務違反(本件PTCA施行についての説明義務違反があった)、(3)手技上のミス(本件PTCA施行中の手技上のミスにより左前下行技に穿孔を生じさせた)、(4)対応の遅れ(左前下行枝に穿孔が生じた時点で心のうドレナージを行うべきであるのに対処が遅れた)、などであったが、判決では、前記(1)及び(2)について、治療行為の適応の問題と当該治療行為に対する患者の同意の問題は切り離すことはできないとして、まず、適応と同意の関係を論じ、一般的適応(当時の医療水準を前提に、当該治療行為に伴う生命・身体に対する危険性と当該症状の状態及びこれに対する当該治療行為の効果を総合考慮し、当該症状に治療の必要性が認められ、当該治療方法が、当該症状に対する一定の治療効果を期待できるものであり、当該治療行為に医療行為として期待される安全性が確保されている場合をいう。)のない治療行為が行われた場合は、原則としてその治療行為は違法性を有するが、一般的適応に欠けるところがあっても、当該治療行為に必要な医療設備ないし医療環境の問題等を考慮し、患者の同意があれば、正当な医療行為として当該治療行為を行うことが許される場合もありうるとした。
適応があるかどうか評価困難な先進的医療では、同様の問題が起こりうる。その意味で参考になる判例である。