慢性中耳炎の患者に対して定期的に聴力検査を行わなかったケースについて医師の責任を認めた
京都地裁 昭和56年1月30日 判タ442号149頁
慢性中耳炎から内耳炎の併発になっていた患者について、抗菌薬などの内服治療を行うのみで定期的に聴力検査を実施せず経過観察を続けていたところ難聴が増悪した。難聴の進行を把握し、適切な時期に手術療法などを行う必要があったとして医師の責任を認めた。
慢性中耳炎から内耳炎に至ると抗菌薬だけの治療では効果が得られないことも多い。難聴の自覚症状がなくても、伝音性難聴の有無や程度を評価するために聴力検査を行い、特に内耳炎に至って前庭症状を呈するに至るケースについては感音性難聴の評価のため、骨導・気道聴力検査が必要になる。難聴の症状は、自覚が乏しいことも多いため、医療機関側が症状を予測して検査する必要性がある。
一方、中耳炎の治療としての鼓膜形成術の適応を判断する際には、積極的に手術を行うよりも、保存的治療を優先させるべきとして保存的治療を尽くさなかった医師の責任を認めたケースもある(名古屋地裁一宮支部 昭和60年12月5日 判時1215号109頁)。ただし、このケースではすでに片方の耳が聴力を失っていて、もう一方の耳の聴力を失うことで両側聴力喪失に至る可能性があった場合に、より慎重な対応が求められたケースと理解することもできる。