「予定通りの手術で、2週間後には元気に帰れますよ。」そう説明されたから手術を受けたのに、実際は帰らぬ人になってしまった、という相談はたくさんあります。手術前の説明には、合併症などの説明が乏しく、当然良くなるものだと思っていた家族にとっては、晴天の霹靂です。手術中の問題点は家族には分かりにくく、「何が起こったのか知りたい」と思うのは当然です。
実際に手術後の急変があったとして相談に来られた場合、カルテなどの情報がなくても、以下のような流れで判断することができます。
まず、手術前の状態です。手術前からたくさんの持病を持っていた場合には、全身麻酔による合併症(心筋梗塞、脳梗塞など)が手術中や術直後に生じる可能性が高くなります。反対に、全く持病のない元気な方が、術後と突然予期せぬ状態になった場合には、合併症以外の何らかの原因があることが多いです。
予想外の出来事が、術後いつ起こったか、が重要です。全身麻酔から覚めないまま死亡した場合には、手術中に何かが起こったことを示唆しています。特に、手術室から生きて出て来られなくなった場合には、手術中に予期せぬ出来事が起こった可能性が高いでしょう。死亡していなくても、術後に手術室から出てきたときに、すでにたくさんの管につながれていたり、術前は何の説明もなかったICUに直接入室するような場合も同様です。その時、鎮静(眠ったままの状態)状態になった理由について、医療機関側から納得できる説明がなければ、問題がある可能性が高いです。反対に、手術室から一旦退室して、麻酔から覚めて家族と話もできる状態になっていたのに、その後に急変した場合は、急変の時期によって予想される状況が異なります。例えば、脳や神経を扱う脳外科・整形外科では、予期せぬ事態は、術後早い段階で生じ、改善しないということが起こります。術後、全く足が動かなかったのか、一旦動いていた足が、動かなくなってきたのかで考えられる状況は全く異なります。消化器外科では、腸管等の消化管を切ってつなぎ直す手術が中心です。手術直後(1-2日目)の縫合不全(縫い目がほどける)は手術が下手な証拠、といわれています。一方、5日以降10日頃に縫合不全が起こってくるのは、患者自体の回復力も原因であることが多く縫い方には問題がなかった可能性もあります。
手術中に医師のミスがあったのかどうかは、カルテやビデオを見て詳細に検討する必要がありますが、術後急変のケースでは、家族からのお話しを聞いて大筋が予想できるかどうか、で問題点の把握スピードが異なります。法律相談に行って、家族の話から、その大筋の予想がつかない弁護士は、カルテを見るポイントも分からないことが予想されます。
一般的に、優秀な外科医であるほど、術前準備が全てだといいます。起こりうる最悪の状況を想像し、準備し、実際は理想的なルートで進めます。外科医は心配性の方が向いているのかもしれません。これから手術を受ける方には参考になるかもしれません。