急性大動脈解離は、致死率の高い疾患である。急激な、今までにない胸の痛みが背中から腰に移動したら要注意である。医師は重大で致死率の高い疾患から考えていかなくてはならない。「今までにない胸の痛み」で来院した患者には、①心筋梗塞、②大動脈解離、③肺塞栓の3つをまず考える。
しかし、実際には、救急外来での見落としはなくならない。例えば、心筋梗塞を疑うような胸部の痛みがあったにもかかわらず心電図を取らずに胃カメラをしているうちに心臓が止まった、大動脈解離を疑う移動する痛みがあったにもかかわらず漫然とベッドに横にならせて様子を見ていたら意識がなくなった、肺塞栓を疑う呼吸困難感があったのにパニックだと判断されて点滴しているうちに呼吸が止まった・・・等、あとから見ればなぜ?と思うようなケースは後を絶たない。
医師の責任を追及できるのか?
急に死にいたる疾患では、昨日まで元気だった人が急に帰らぬ人になるため、家族に不信感が起こる。なぜ?病院に行ったのに?病院側になにか見落としがあったのではないか、という相談もたくさんある。しかし、ここで、医師の責任を追及できるか否かは、「どの医師が見ても、この疾患を疑って必要な検査をするべきだったといえるかどうか」に関わる。不幸にも分かりにくい症状で、診断が非常に難しいケースもある。そのようなケースでは、結果として不幸な結末になったとしても、医師の判断や行動を責めることはできない。医師の責任を追及できるかどうかは、典型的な症状があったのに、適切な検査を行わなかったという点にかかわる。その判断は、家族や患者には難しい。
診断できたのか、困難だったのか、その事実を明らかにしていく作業が専門の医療法律相談であり、医療訴訟である。